初秋

又、一本思い出の木が枯れてしまった。
祖父が何処からかもらって来たらしい。亡き父が愛し、一時は我が家の庭でも王様のように威勢が良かった。
父が亡くなってもう15年にもなるが、父の死後も大切にしてきたつもりだった。
私も子供の頃から一緒に育ったので、想いでも多く、木登りが出来るまで成長したその木は、夏の暑い日には木陰を作って休ませてくれていた。
小さな虫の穴を見つけては、殺虫剤を流し込んだりしていたものだった。
今から3年前に引越しをして、以前住んでいた家は空家となった。
その頃から木々も弱り始めたような気がする。
主を失って寂しかったのだろうか?
久振りに以前住んでいた家に行って、立ち枯れてしまった姿を発見した。
時には雨風から家を守り、時には遊び相手となってくれたその木は、せめて私の手で荼毘にふそう。
物悲しい秋の始まりである。